大量印刷とオンデマンド印刷
 オンデマンド印刷という呼称は「要求に応じて」Print on demand の言葉に由来しており、小ロット・短納期印刷を意味しております。しかし、オフセット印刷方式であっても、小ロット・短納期で印刷物を制作し、納品する事も可能であり、それもオンデマンド印刷であるといえます。正確に言うとオンデマンド印刷は印刷方式ではなくビジネススタイルやビジネスモデルを表す用語であります。印刷方式を表すものとして相応しい呼び方は作業工程がデジタルでなされる事からデジタル印刷・デジタルプリントが近い呼び方であり、オフセット印刷の大量印刷 に対しての小ロット印刷の代名詞としてデジタル印刷を簡単に代呼したキーワードにすぎま せん。
当初はメインフレームコンピュータの独立プリンターとして、小ロットカラー印刷を速く安くというキャッチフレーズでオフセット印刷では割の合わない分野や、単純小ロットのオフセット印刷市場を席巻すると思われていました。しかし、マスプロの理屈である刷れば刷るほど単価は下がるとはいかず、個数の多少に関わらずランニングコストが変わらない為に単純に安く出来ないのが普及の傷害となっています。

 デジタル印刷(オンデマンド)は、従来印刷(オフセット印刷)との大きな違いは刷版を作らずデジタルデータを直接印刷媒体にプリント出来る事です。その特徴から実際にメリットとなる事を考えてみましょう。

  1. 単純に刷版の行程を省略される為に付帯作業を含めて時間が短縮できる。
  2. CTP・DDCP・イメージセッターなど刷版作成に係る設備の維持・運用費用が係らない。
  3. 刷版作業に渡る前後のカンプ・板の検版作業が無くなる。
    (デジタル印刷の検版はプリント後の製品から実施)

 実際にはヤレ版による費用と時間がコストに響くのでオフセット印刷ではカンプを出して検版しますが、そのカンプ検版作業が本紙であればデジタル印刷では校了作業となり、後は必要部数のプリントとなります。

 マスプロの印刷プロセスをそのままデジタル印刷(オンデマンド)に置き換えると作業効率の点については良い事ずくめですが、一部作成にかかる費用(メンテナンス契約によるカウント料金)は常に変わりません。

 刷版プロセスの省略による設備資金と運用維持費用が不要となるメリットに対して、カウンター料金は最大の弱点ではありますが、出力枚数から原価が算出可能な事からオフセット印 刷方式との時間と納期など諸々の条件を考慮したトータルコストを天秤に掛ける事で、損益 が事前に判ります。


デジタル印刷
 オフセット印刷を前提とした従来の印刷スタイルから刷版作業不要のデジタル印刷は、コストと制作時間の短さでの違いに多くの注目を浴び、営業形態も大半は既存の印刷を単純に数量の価格差のみで判断されています。およそDTPという名の元で版下作成から色指定のレタッチ作業をパソコンでデジタル処理されながらも、正しく分色刷版が出来ないトラブルから 解放されるメリットは従来の印刷ビジネスと本質的な相違があるに他なりません。

 ビジネスモデルとして最初にプリント作業が行われたのは、金融・証券にまつわるコンピュータシステムの管理帳票、残照約定関係のメーリングサービスからでした。発足当時はパソコンな どの端末が無い事から、管理資料をまとめた印刷物はデジタルならでは出来る産物でした。
 現在はデータベースの作成技術とパソコンの普及から管理帳票の作成は皆無になりましたが、顧客を対象としたメーリングサービスはデジタル印刷無くてはありえません。

 顧客ごとに合わせて宛名や内容をレイアウトしプリントすることから典型的なバルアブル印刷を得意としているのがデジタル印刷と言えます。というよりもバリアブル印刷の考え方そのものは印刷業を営む側からの考え方であり、大元を辿ればビジネスシステムの一端として資料作成や業務調票、顧客へのDMなどのすべては一部を作成するのみの前提として作られています。したがって、マスプロの概念からほど遠くにありながら貴重な情報を編集・集約された印刷行為であるといえます。
印刷機の機能・印字品質の向上から純粋な印刷の分野にオンデマンド印刷として登場した印刷手段ですが、バリアブル印刷を考える場合、印刷機の用途範囲の拡大から要求される 処理方法が大きく異なります。

 大きく別けると次の様になります。

  1. DM印刷
    宛名印刷は従来より各種案内を多数の人に送るということから、高速に宛名を印字する事が求められ、仕上がりの体裁よりも確実性が重視されています。銀行、保険、クレジット会社、公共料金などの案内がこれにあたり、身近に目にすることができます。また、パソコンの普及により年賀状を自宅のプリンターで宛名印刷するのも同じニーズであり、年賀状ソフトの使い易さが普及に貢献しています。
  2. 差込み印刷
    絵本などの文中に後刷するもので、主人公の名前の部分を顧客名に差し替えて印刷するミーブックや、特色を用いた印刷やオフセット印刷の後に個別の情報を印字するナンバリング印刷がありますが、可変データを印刷する前の段階でその都度、再組版しなければならい為に組版ソフトの完成度が善し悪しを決めます。
  3. ダイナミック印刷
    前記のDM印刷や差込み印刷はレイアウトの変更を伴わないバリアブル印刷で、可変部分を空白にして構成を考えるのに対して、すべての印刷コンテンツや印刷位置のレイアウ トも可変となる印刷があります。 保険契約など個々の契約内容に従って約款の印刷内容を可変に印刷するものや、顧客に同じ内容のものを提供するのではなく、異なるドキュメントをそれぞれのニーズに合わせて制作するものがあります。ネット販売では過去に購入した物の傾向から、顧客に関心のある商品を順次網羅して紹介するメール作成など、印刷物にするしない以前にすでに本格化しはじめています。


 以上から、まるでデジタル印刷の歴史がバリアブル印刷そのものに反映されていることが判ります。製版のデジタル化に伴いDTPはレタッチ作業を置き換えただけに過ぎず、人為作業は何ら変わりません。インターネガ、網細工などの材料費が係らなくなり、画像や切り抜き作業、見当合わせなど完成度の高い製品が出来るようになったのは事実ですが、マスプロ前提で のDTPはデジタル印刷の得意とするバリアブル印刷からかけ離れた手段と言えます。

 製版された版一版に対して何千何万と生産するのと、何千何万と製版した版に一部の印刷をするのみではまるで意味が違っています。商品価値としても、必要な情報を必要な人物に渡すのであれば重要な印刷物となり、万人向けの情報よりパーソナルな情報は評価も高く、意味のある制作行為となります。まさしくオンデマンドを意味する必要な時に、必要な人物に、 必要な情報を提供する印刷物となります。

 デジタル印刷の始まりは不特定多数の人々に伝える事を目的としていません。印刷の目的であるアドバタイジングの役割は無く、特定の個人に送るビジネスシステムの一部考えられてい ました。丁度、買い物をしてレシートや預かり証を渡すのと変わらず、商取引の行為そのものと認知されていました。 バリアブル印刷はビジネス行為として一辺倒だった情報発信から何らかの形で管理された情報提供に換えることで、評価と結果を明確化しようとする狙いがあります。昨今の個人情報の管理と利用手段について厳しい状況になればなるほど企業は、業務で手に入れた情報は他社との差別化と優位に立つツールとなります。効果的に印刷物を使う事で顧客の囲い込みや傾向予測などから、ビジネスを助けます。

 バリアブル印刷に求められるものは電子メディアへの対応など、印刷に直結することばかりでないため、求められる組版品質や印字速度の違いからソフトウエアの処理機能がコストと制作時間に幅広く影響します。特に機能を特定する事がたやすい、宛名、名刺など顧客や商談相手などの典型的な印刷物を考えると、次の機能が要求されます。

  1. テキストのカーニングとトラッキング
    文字間隔の調整、追い込み追い出し処理
  2. 画像レイアウト
    画像挿入枠への拡大縮小のフィッティング機能
  3. 人名字取機能
    長さをそろえる五字取り、七字取りなどの組版
  4. ナンバリング用数値発生機能
    順次加算・減算、奇数・偶数の指定など
  5. バーコード作成機能
    JANコード・QRコード・郵便バーコードなど連番・任意に作成
  6. 文字修飾機能
    段落や文字列・書体変更などスタイル変更
  7. 各種フォーマット対応
    CSV,EXCEL,MDB,MDF,XMLなど
  8. 各種ドキュメント作成機能
    PDF,SWFなど

 以上、代表的な要求される機能ですが、用途に応じて開発をその都度行いながらビジネススタイルが確立していきます。要求される機能が増えれば増えるだけソフト開発、データメ ンテナンス、データマイニングなど印刷にいたるまでにコストと時間が係ってしまいます。

 製版に当たる部分と使用するデータ編集などの刷版前処理でオンデマンド印刷のほとんどが完了していると言っても過言ではありません。それは製版の検版に当たる作業がソフトウエアに因る製版作業の為、必要で無いからです。当然用意した編集すべき項目や条件が間違いない上ですが、要求したアイテムに対して取り違えや抜けは人為作業で行われないために、取り違いなどが起こらない環境下であるからです。当然ソフトの完成度に依存しますが、可能な範囲内で実行するので検版は擦れや刷物破損のみの検版となります。中でもナンバリングやバーコードの作成編集印刷などは最も信頼度が高く、高速印刷が可能な事から量産製品の流れ作業に取り入れられています。


製版とDTP
 オフセット印刷とオンデマンド印刷はニーズの成り立ちから違いを理解出来たと思いますが、実際に仕事としてパソコンを中心としたDTPのデジタル作業に渡った場合、製版、検版、出力と仕事の流れは変わりません。マスプロかバリアブルかの違いによって作業、コストに大きく違いがある事を理解しなければなりません。マスプロとバリアブルの大きな特徴をまとめてみると次の様になります。

マスプロ印刷
製版(オフセットとオンデマンド共通)
 デザイナー版下作成から画像差し替え、変更など複雑な指定をオペレータを介して可能となります。反面、指定間違いや取り違い、欠落などが発生易い状況を作る事になります。
検版
 オフセットの場合はカンプや指示から違いを見つけるのは当然ですが、多色刷の場合には分色版としての検査が必要となり、ノセ文字や抜き合わせなど専門的な技量が必要となります。オンデマンドの場合はカンプが本紙であれば製品であるがゆえに、校正で起こる見当やモワレなど問題となる要素が少なく、見た目のチェックがすべてとなります。
印刷
 オフセットは部数が多ければ多いほど紙代とインク代を中心にコストが発生します。オンデマンドは保守契約からカウンター料金により部数が増えても安くはならず、オフセットと比べられる最大のネックとなっています。


バリアブル印刷
製版
 基本的に部数を要求しないのでオフセットを印刷手段で行う事はないと考えられます。仮にオフセットの印刷手順を追随するとなると、製版時間や作成データ量などが膨大なものとなり、出力時間と変更訂正に対応し難い状況となり、現実的ではありません。基本的に可変となる元原稿と非可変など雛形となるプログラム作成作業により、単純な校正と可変となる原稿が管理されていれば、多くの手間を必要としません。しかし、作業に人為作業が含まれるとなると、作業の信頼度がかなり低くなります。
印刷・検版
 見本以外は元データから確認すればできますが、製品そのものを調べるのは基本的に乱丁、汚れ、擦れが中心となります。ソフトにより行っている限り、部数や内容取り違いは皆無となります。念のために納品検版用に元データよりチェックリストを作り確認すれば万全ですが、何らかの理由で手作業で行うと、間違いを見つけられません。内容の判る物は発見しやすいのですが、バーコード・QRコードなどを張る込む作業は、ダブりや欠落に対して見つけにくくなります。納品後の運用時に発覚となり取り返しがつかない事故となります。